施設さがし
身寄りがないまま施設に入るとき|元気なうちに決めておける5つのことと、成年後見制度の使いどころ

「もし私が先に認知症になったら、この契約はどうなるんでしょうか」
ご自身の入居について相談に来られた、80代の女性からの質問です。
お子さんはおらず、ご兄弟も遠方。頼れる人が近くにいない、というお話でした。
身元保証については以前に書きました。ただ、あの記事で扱ったのは「施設から求められたときにどうするか」という場面の話です。
今日はもう少し手前、元気なうちに何を決めておけるかを書いてみたいと思います。
私自身、この分野は最初「後見人をつければ全部解決する」と思っていました。実際はそう単純ではありませんでした。
頼れる人がいない、は珍しいことではありません
数字をひとつだけ。
成年後見制度(判断能力が下がった人の財産や契約を、代わりに守る仕組みです)の申立ては、2024年の1年間で41,841件ありました。
そのうち9,980件、およそ23.9%が市区町村長による申立てです。
これは、申し立てる親族がいない、あるいは協力が得られない場合に、市区町村長が代わりに手続きをしたものです。
4件に1件近くが、そういう形で始まっている。
つまり、身寄りのない方が施設に入るというのは、制度の側もすでに想定している状況だということです。
決めておけることは、大きく5つ
順番に並べると、こうなります。
【1】判断能力が下がったあとの財産・契約を、誰に任せるか
【2】判断能力があるうちの手続き(銀行・役所など)を、誰に手伝ってもらうか
【3】入院や入居のときの連絡先・保証を、誰に頼むか
【4】亡くなったあとの葬儀・納骨・解約手続きを、誰にやってもらうか
【5】医療についての希望を、どう残しておくか
【1】が成年後見制度、【2】が財産管理の委任、【4】が死後事務委任契約と呼ばれるものです。
ひとつの制度で全部をまかなうことはできません。 ここが最初につまずくところだと思います。
成年後見制度は「下がってから」の仕組みです
まず押さえておきたいのは、法定後見は判断能力が下がったあとに使うものだということです。
元気なうちに「私の後見人はこの人で」と決めておくことはできません。
誰が選ばれるかを決めるのは家庭裁判所です。
2024年に選ばれた人の内訳を見ると、親族が選ばれたのは約17.1%。残りの約82.9%は司法書士や弁護士などの第三者でした。
希望を書いて出すことはできますが、そのとおりになるとは限らない、ということです。
申立ての理由としていちばん多いのは預貯金等の管理・解約で92.7%、次いで身上保護が73.5%、介護保険契約が44.7%となっています(複数回答)。
施設に入るために必要な手続きが、そのまま理由になっているのが分かります。
なお、審理にかかる期間は2か月以内に終わったものが72.0%、4か月以内が93.8%です。
「何年もかかる」と思われている方が多いのですが、いまはそこまで長くありません。
元気なうちに決めたいなら、任意後見です
【1】を自分で決めておきたい場合の選択肢が、任意後見契約です。
これは公正証書で結ぶ必要があります。 口約束や私製の書面ではできません。
そして大事な点がもうひとつ。
任意後見契約は、結んだ時点では効力が生じません。判断能力が下がったあと、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだときから効力が生じます。
つまり「契約しておいて、必要になったら動きだす」という構造です。
ただ、この制度は正直なところ、あまり使われていません。
2024年末時点の利用者は成年後見が179,373人、保佐が54,916人、補助が16,857人。これに対して、任意後見はわずか2,795人です。
全体25万人あまりのうち、1%ちょっと。
知られていないのか、公正証書が面倒なのか。私は両方だろうと思っています。
2026年6月に、制度が変わることが決まりました
ここは書き方に気をつけたいところです。
2026年6月17日に民法等の改正法が成立し、6月24日に公布されました。成年後見制度の見直しが含まれています。
内容の核は、後見と保佐の制度を廃止して、補助に一元化するというものです。
「一度つけたら本人が亡くなるまで続く」「必要のない場面まで代理されてしまう」といった、これまで指摘されてきた点に対応するものだと受け止めています。
ただし、この部分はまだ施行されていません。
施行日は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされています。
いま申し立てる場合は、現行の制度で進みます。
数年のうちに変わる、という前提だけ頭に置いておいていただければ十分だと思います。
亡くなったあとのことは、別に決めておく必要があります
ここが、いちばん抜けやすいところです。
成年後見人の仕事は、本人が亡くなった時点で原則として終わります。
火葬や納骨に関する契約など、一部は家庭裁判所の許可を得て後見人が行える扱いになっています。
ただし、葬儀そのものの手配、部屋の片づけ、電気やガスや携帯電話の解約までは、後見人の業務として当然にできるわけではありません。
そのために使うのが、死後事務委任契約です。
生前に「亡くなったあと、これとこれをお願いします」と決めて契約しておく形になります。
国のガイドラインでは、こういった点を契約書と重要事項説明書に明記しておくことが重要だとされています。
【1】具体的な支援内容
【2】費用支払のための預託金(前払いで預けるお金です)の取扱い
【3】残ったお金をどうするか
とくに預託金については、相続人との間でもめる原因になりやすいと明記されています。
ガイドラインは、事業者に対して推定相続人にも事前に説明しておくことが望ましいとしています。
遠くの親族であっても、話だけは通しておいたほうがいい、ということだと思います。
事業者を選ぶときに見る4つのこと
【1】預託金を、会社の運転資金と分けて管理していますか
【2】信託銀行や信託会社を使った保全をしていますか
【3】解約したときの返金の決まりは、契約書のどこに書いてありますか
【4】預託金の管理状況を、定期的に報告してもらえますか
ガイドラインでは、預託金は事業者自身の運営資金とは明確に区分して管理すること、信託契約を利用して保全することが望ましいとされています。
ですから、この4つは無理を言っているのではなく、国が望ましいと書いていることを確認しているだけです。
聞きにくい質問ではありません。
答えが曖昧だったり、「そこは大丈夫ですから」で流されたりするようなら、いったん持ち帰ってよいと思います。
金額そのものより、内訳が分けて書かれているかどうかのほうが大事です。
誰にも頼めないときは、どこに相談するか
ここまで読んで「そもそも頼む相手がいない」と思われた方もいると思います。
その場合の入口は、お住まいの市区町村の地域包括支援センターです。
権利擁護、つまり成年後見制度の利用支援は、このセンターの4つの業務のひとつに位置づけられています。
市区町村長申立てにつなぐ判断も、ここが窓口になります。
前に書いたとおり、担当は本人の住所で決まります。何も決まっていない段階で相談して大丈夫です。
社会福祉協議会が同じような相談を受けている地域もあります。
民間のサービスを組み合わせるという手もあります
とはいえ、公的な窓口だけでは埋まらない部分があります。
身元保証、入院時の対応、亡くなったあとの手続き。このあたりを一本にまとめて引き受けてくれる事業者が、近年増えました。
国がガイドラインを出したのも、利用が広がっているからです。
どこも同じではありませんので、まずは資料を取り寄せて、費用の内訳と解約時の返金の決まりを読み比べてみるのがいいと思います。
比べる相手が1社だと、高いのか安いのかも分かりませんので。
※以下は広告を含みます。
まとめ
身寄りがない状態で施設に入ることは、制度の側も想定しています。
ただし、ひとつの制度で全部はまかなえません。
判断能力が下がったあとのことは成年後見や任意後見、亡くなったあとのことは死後事務委任契約。役割が分かれています。
任意後見は公正証書が必要で、効力が生じるのは監督人が選ばれたときから。
2026年6月に成立した改正法で後見・保佐は補助に一元化されますが、こちらはまだ施行されていません。
そして、お金を預けるタイプの契約では、預託金の管理方法と返金の決まりを必ず確認する。
まずは、お住まいの地域包括支援センターに一本電話を入れるところから始めてみませんか。
次回は、入居後にお金が続かなくなったときの手立てについて書きます。
よくある質問
Q. 元気なうちに「この人を後見人にしてください」と決めておけますか。
A. 法定後見ではできません。選ぶのは家庭裁判所です。決めておきたい場合は、公正証書で任意後見契約を結ぶ形になります。ただし効力が生じるのは、判断能力が下がったあと家庭裁判所が任意後見監督人を選んでからです。
Q. 後見人がつけば、葬儀や納骨まで見てもらえますか。
A. 後見人の仕事は本人が亡くなった時点で原則として終わります。火葬や納骨の契約など一部は家庭裁判所の許可を得て行えますが、葬儀の手配や部屋の片づけ、各種解約まで当然にできるわけではありません。確実にしておきたいなら、死後事務委任契約を別に結んでおく形になります。
Q. 2026年の法改正で、いま申し立てるのは待ったほうがいいですか。
A. 改正部分はまだ施行されていません。施行日は公布から2年6か月を超えない範囲で政令で定めるとされています。いま必要な手続きは、現行の制度で進めることになります。
Q. 遠くの親族に、事前に話しておく必要はありますか。
A. 法律上の義務ではありません。ただし国のガイドラインは、死後事務の内容や預託金について推定相続人にも事前に説明しておくことが望ましいとしています。あとから相続人との間でもめやすい部分なので、話だけは通しておくほうが結果的に楽だと思います。
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※本記事は2026年9月時点の情報にもとづいています。成年後見制度の見直しを含む改正法は2026年6月24日に公布されましたが、当該部分は未施行です。市区町村長申立ての運用、地域包括支援センターや社会福祉協議会が受けられる相談の範囲は自治体によって異なります。具体的な手続きは、お住まいの市区町村にご確認ください。
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