施設さがし
入居後に「退去してください」と言われるのは、どんなときか|契約書の退去要件と、そうなる前にできること

施設が決まった日のことを、私はよく覚えています。
ご家族の肩の力が抜けて、「これで一区切りですね」と笑われる。あの瞬間のためにお手伝いをしている、と思うほどです。
ただ、そのあとに届く相談で、いちばん多い言葉があります。
「入居して半年で、うちでは難しいと言われました」
入る前は誰も、出る話を考えません。私も昔はそうでした。
でも退去の条件は、入居した日の契約書にすでに書かれています。読んでおけば防げたはずの相談を、これまで何度も受けてきました。
今日はそこを一緒に見ていきます。
施設は、思っているほど自由に退去を求められません
まず知っていただきたいのは、施設側から契約を切るのは、そう簡単ではないということです。
有料老人ホームの運営ルールを定めた国の指針には、こう書かれています。
事業者側の契約解除の条件は「信頼関係を著しく害する場合に限る」など、入居者の権利を不当に狭めるものになっていないこと。
つまり「手がかかるようになったから」だけでは、本来は理由になりません。
指針にはもう一つ、大事な定めがあります。
介護度が変わって住み替えが必要になるときは、医師の意見を聞き、本人または身元引受人の同意を得て、様子を見る期間(観察期間)を置く。その手順を契約書に書いておくこと。
いきなり「来月までに出てください」という進め方は、この指針から外れています。
そう言われたときに「契約書ではどういう手順になっていますか」と聞き返せる。それだけで、話の進み方はずいぶん変わります。
実際に退去要請につながりやすい5つの場面
とはいえ、現実に退去の話が出る場面はあります。多いのは次の5つです。
【1】医療的なケアが増えたとき/たんの吸引、経管栄養、インスリン注射など。夜間に看護師がいない施設では、対応できないと判断されることがあります。
【2】認知症の症状で、他の入居者との生活が難しくなったとき/大声、徘徊、他の方の居室へ入ってしまう。本人に悪気はなくても、集団生活の中では課題になります。
【3】他の入居者や職員への暴力があったとき/5つの中では、いちばん重く扱われます。「信頼関係を著しく害する場合」に当たると判断されやすい場面です。
【4】入院が長引いたとき/特別養護老人ホームでは、入院がおおむね3か月を超えると退所の扱いになる契約が多く見られます。ただし運用は施設や自治体で違います。必ず入居先の契約書を確認してください。
【5】利用料の滞納が続いたとき/1〜3か月の滞納で解除できる、と定めている契約書が多いです。
こう並べると不安になるかもしれません。
ただ、逆に言えば、この5つを入居前に確認しておけば、退去の話が出る場面はかなり絞り込めます。
契約書のどこを読めば、退去の条件がわかるか
契約書は分厚くて、読む気をなくします。私も最初はそうでした。
全部を読む必要はありません。次の4か所だけ見てください。
【1】「契約の解除」の条項/事業者側から解除できる場合が箇条書きになっています。ここが本体です。
【2】予告期間/何日前に伝えられるか。90日前としている施設もあれば、30日前の施設もあります。転居先を探す時間そのものなので、短い施設は要注意です。
【3】介護度が変わったときの手続き/医師の意見、本人・身元引受人の同意、観察期間。この3つが書かれているかを見ます。書かれていない契約書は、それだけで少し身構えたほうがいいと思います。
【4】前払金(入居一時金)の返還/退去のときにいくら戻るか。ここは後の章でもう一度触れます。
見学のときにこの4か所を聞くと、施設の姿勢がよく見えます。すらすら答える施設は、たいてい説明の準備ができています。
施設の種類で「出される場面」は違います
同じ「退去」でも、施設の種類で意味合いが変わります。
【特別養護老人ホーム】/終の住まいと言われますが、長期入院は例外です。医療的ケアが理由で退所になる例もあります。
【介護付き有料老人ホーム】/看護職員の配置時間で、対応できる医療行為の幅が決まります。夜間の看護体制があるかどうかが分かれ目です。
【住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅】/介護は外部の事業所から受ける形です。必要な介護量が増えて外部サービスで支えきれなくなると、住み替えの話が出ます。
【グループホーム】/認知症の方のための共同生活の場です。共同生活が難しくなった時点で、退去の検討に入ります。
「うちの親はどの型に入っているのか」。ここがあいまいなままだと、退去の話が出たときに納得がいきません。
退去を告げられたとき、その日にできること
告げられた直後は、頭が真っ白になります。
それでも、先にやっておくと後が楽になることが4つあります。
【1】理由を書面でもらう/口頭だけにしないでください。あとで相談するときに、書面があるかないかで話の通り方が違います。
【2】予告期間の起算日を確認する/「いつから数えて何日か」をはっきりさせます。ここが曖昧なまま日にちだけ過ぎるのが、いちばんもったいないです。
【3】ケアマネジャーと地域包括支援センターに、その日のうちに連絡する/転居先探しは、早く動いた人ほど選択肢が残ります。
【4】施設を指導する立場の窓口に相談する/有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は、都道府県などが指導監督をしています。介護保険サービスの内容についての苦情は、市町村や国民健康保険団体連合会でも受け付けています。
「もめたくないから」と黙ってしまう方が多いのですが、相談したことが本人に不利に働く、という話は私は聞いたことがありません。
急いで動かないほうがいい場合もあります
一方で、すぐに転居を決めないほうがいい場面もあります。
一つは、入院中に言われたときです。
退院時の状態が固まっていない段階で施設を決めると、退院後にもう一度動くことになりがちです。まずは病院の退院支援の担当者に、状態の見通しを聞いてください。
もう一つは、退去の理由が一時的な症状のときです。
環境が変わった直後や、体調を崩した直後は、症状が強く出ることがあります。落ち着いてから改めて話し合いたい、と伝えてみる価値はあります。
観察期間を置く手順が契約書にあるなら、それを持ち出せます。
そして、感情のもつれが理由になっている場合。
職員との行き違いが積み重なっているだけなら、話し合いで戻せることもあります。転居は本人の体にも負担がかかります。まず一度、施設長と時間をとってもらってください。
次の住まいが決まるまでを、どう埋めるか
退去日までに次が決まらない。これは実際によくあります。
いったん自宅に戻る、という選択をされるご家族も少なくありません。
ただ、施設に入る前と同じ状態ではないことが多いはずです。介護保険の訪問介護には利用できる範囲に限りがあり、通院の付き添いも原則は対象外です。
数週間だけ手を厚くしたい、というときには、保険外(自費)の訪問介護という選択肢があります。
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料金は保険サービスより高くなりますので、必要な期間を区切って使うのが現実的だと思います。合う合わないもありますから、まず見積もりだけ取ってみる、くらいの気持ちで十分です。
お金の面で、確認しておきたいこと
退去が現実になったとき、続いて出てくるのがお金の話です。
前払金(入居一時金)を払っている場合は、返還のルールを見てください。
入居から3か月以内に契約が終わったときは、前払金から実費にあたる額を引いた残りを返す、という決まりがあります。老人福祉法にもとづく短期解約特例、いわゆる90日ルールです。
3か月を過ぎている場合は、契約書の償却期間と償却率の計算で戻る額が決まります。ここは施設ごとに違うので、必ず書面で計算を出してもらってください。
もう一つ、見落とされがちなのが原状回復の費用です。
居室の修繕をどこまで負担するのか。日焼けや家具の跡のような自然な劣化まで請求されていないか。ここも書面で確認します。
そして、転居そのものにかかる費用です。居室の荷物は思ったより多く、ベッドや車いすが入ると一般の引越しと同じ規模になります。退去日が決まってから慌てて手配すると、割高になりがちです。
まとめ
退去の話は、切り出されてから考えると必ず後手になります。
覚えていただきたいのは3つです。
施設側からの解除は「信頼関係を著しく害する場合」などに限られていること。
契約書の4か所(解除条項・予告期間・介護度変化時の手続き・前払金の返還)を先に読んでおくこと。
告げられたら、理由を書面でもらい、その日のうちにケアマネジャーと地域包括支援センターに連絡すること。
入居のときに一度だけ、契約書のこの4か所に付箋を貼っておく。それだけで、いざというときの動き方がまるで変わります。
今日、押し入れから契約書を出してみませんか。
よくある質問
Q. 施設から一方的に退去を求められたら、従うしかないのでしょうか。
A. いいえ。まず理由と契約上の根拠を書面で求めてください。国の指針では、事業者側の解除条件は入居者の権利を不当に狭めないことが求められています。納得できないときは、施設を指導監督する都道府県などの窓口に相談できます。
Q. 予告期間は何日あれば安心ですか。
A. 法律で一律には決まっていません。90日前としている施設は転居先を探す時間が確保しやすく、30日前の施設はかなり慌ただしくなります。入居前の見学時に確認しておきたい項目です。
Q. 入院したら、必ず退所になりますか。
A. なりません。ただし特別養護老人ホームでは、おおむね3か月を超える入院で退所の扱いとする契約が多く見られます。運用は施設や自治体で異なるため、入居先の契約書で確認してください。
Q. 退去のとき、入居一時金は戻りますか。
A. 入居から3か月以内であれば、実費を除いた額が返還されます(短期解約特例)。3か月を過ぎている場合は、契約書に書かれた償却期間と償却率で計算されます。金額は必ず書面で出してもらってください。
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住まいブリッジでは、地域ごとに施設を探せます。掲載順は広告費では決まりません。今の住まいが合わなくなったときの、次の候補探しにお使いください。
※制度の内容は2026年9月時点のものです。運用は自治体や施設によって異なります。実際の手続きは、入居先の契約書とお住まいの市区町村の窓口でご確認ください。
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